2025年12月9日
【第3分科会】100年続く経営をつくる~人事評価制度は「会社の育児書」~
㈱光ファーム 専務取締役 篠塚朋子さん
境町の㈱光ファーム(以下、光ファーム)は、水稲・麦・そば等の作付面積140haを超える県内屈指の大規模普通作経営体です。
2018年3月に人材育成と将来の事業承継を見据え、家族経営から組織経営に転換し、光ファームを設立しました。法人化以降、キャリアマップの見える化や、能力評価による給与制度と人事評価制度の導入に注力してきた専務取締役の篠塚朋子さんに、人材育成の取組についてご紹介頂きました。
人事評価制度導入のきっかけ
法人化直後の2018年4月、朋子さんは農業経営について学ぶため、いばらき農業アカデミー「女性農業経営者育成講座(現リーダー農業経営者育成講座)」を受講します。講座を通して、社長の夢を理解し、具体的な戦略を立案・実行するのが自身の役目と気づき、経営の課題を社長と話し合い、2つの課題が見えてきました。
1つ目は、地域の農地を守るために経営の継続、2つ目は、他産業で就業した娘2人に代わる後継者の確保です。「将来的に経営を任せられる人を育てるにはどうしたらいいのか…」その解決方法の一つが従業員の育成でした。
そんな折、光ファームに試練が訪れます。それは、採用して間もない従業員の突然の退職。あまりに突然のことで理由を聞く事もかなわなかったそうですが、それさえも変革のきっかけになりました。
社長と社の問題点を話し合い、普及センターに教えてもらった県よろず支援拠点に相談し、農業に精通している社会保険労務士を紹介してもらいました。これがきっかけとなり、就業規則を整備し人事評価制度をつくることになったのです(図1)。

人事評価制度の作成(2020年~)
根拠ある給与体系と評価の仕組みづくりのため、前出の社会保険労務士の助言を4度ほど受けて人事評価制度の作成が始まりました。
行ったことは大きく3つあります。それは、
① 会社の業務の洗い出しによる仕事の見える化、
② 光ファームが求める仕事への取組み姿勢(コンピテンシー)の明確化、
③ ①②を踏まえた根拠ある給与体系と評価の仕組みづくりです。
求める行動や能力が明確になれば、従業員は「何をどう頑張ればよいか」、経営者は「どこを指導すれば良いか」がわかるようになります。そして、仕事ができるようになれば従業員の給与や役職がアップしてモチベーションが高まり、従業員・経営者共に、給与額に納得感が得られる効果が期待されるのです。
試行錯誤の結果、光ファームの月給は、基本給・技能評価・管理評価・経営評価・資格手当の5つの要素で構成することになり、年1回の評価で決定することになりました(図2)。加えて、光ファームが求める仕事への取組姿勢を評価するコンピテンシー評価を毎月実施し、年2回の賞与を決定することとしました。

ここで光ファーム流、会社の業務の洗い出しのポイントを紹介します。
ポイント1 ~技能評価と管理評価づくり~
まずは、業務の洗い出しからスタートしました。ここで参考にしたのは、2019年にJGAP認証を取得した際に整理した品目ごとの作業工程とリスク評価です。これら業務のうち、農業機械の準備や操作に関わる仕事を技能評価、計画的な圃場管理の実施や記録に係わる仕事を管理評価に分類し、特に重要な項目には色を付けて見える化する工夫をしました。
ポイント2 ~経営評価づくり~
経営評価の狙いは、将来経営を任せる人材を育てることです。そのために、経営陣が望む経営者の「心構え・行動」を項目化し、経営者が何をしているのかを従業員に示し、理解してもらう工夫をしました。
これらの視点を組み込んだ人事評価制度は2020年8月に完成し、運用を開始します。従業員に期待する業務を見える化し、達成度を点数化、給与に反映する仕組みが整ったのです。この時朋子さんは、「これで会社の育児書が出来た」と実感したそうです。
人事評価制度導入後の変化(2021年~)
人事評価制度の導入に合わせて、月一回15分ほど役員との面談の機会を設けることで、コミュニケーションを取りながら社長の考えや従業員に対する思いを直接伝える機会が増えました。これにより、従業員が会社の理念を自然と理解し、社長が考えている会社の未来を現実にしてくれていると実感するようになったそうです。
会社設立からの従業員は、機械操作では光ファームのエースになり、入社3年目を迎える双子の従業員2人は、それぞれの得意分野でリーダーシップを発揮する心強い存在に育っているそうです。
そして、仕組みが整い、農家から企業家への手ごたえを感じた2024年頃から、「人が育ち、会社が育ち、地域の為、社会の役に立つために、この会社を残したい…」との思いが強くなり、新たな目標を掲げました。
100年続く経営をつくる
光ファームの新たな目標は、将来的に200haを担える経営を確立することです。
そのために、会社としては儲かる農業経営を実践しつつ、地域の仲間と農地の集約化を進め、地域農業の活性化に挑みたいと考えています。また、従業員が新しい事に挑戦し、働き甲斐を感じる会社の風土づくり、経営のバトンをつなぐための組織化に一層力を入れたいと考えているそうです。
事業継承は社長が60歳になる2031年と決めています。それは、従業員が自ら考えて自立し、会社が自走できた時に訪れます。そんなゴールを夢見て、日々新たな課題に取り組んでいる朋子さんです。
受講生へのエールの言葉
「私は子育てが好きなんだと思う」打合せの時につぶやいた朋子さんの言葉や、発表の終盤に詠んだ思いから、人事評価制度を単なる評価指標でなく「会社の育児書」と表現した思いを感じ取ることができました(図3)。
人が育ち、会社が育ち、地域も良くなる…会社の育児書の先に透ける光ファームの未来には、従業員の幸せ、会社に関わる人の幸せ、地域農業の幸せが広がります。組織作りの先にある壮大な目標に受講者全員が聞き入り、「そのバトン絶対つながる!」と感じるひと時を過ごした第3分科会でした。

