露地野菜生産に始まり、太陽光型植物工場、就労継続支援B型事業所の運営や物流事業等を行う7つのグループ会社による多角化経営を展開するSUZUNARI GROUP。代表取締役の鈴木貴博氏は、大学卒業後、山梨県の農業法人での2年間の研修を経て、親元就農。25歳で経営を継承し、32歳で「株式会社鈴生」を立ち上げました。「株式会社鈴生」は設立から5年で年商1億円を突破し、現在はSUZUNARI GROUPとして年商14億円の企業に成長。2024年11月末にグループ3社の代表を後継者に引継ぎ、各社の取締役相談役として伴走支援を続けています。
基調講演では、日本を代表する農業経営者の一人である鈴木社長に登壇いただき、その経営の根底にある考え方を伺いました。

正解なんて誰も知らない
「“5+5”の答えは10。正解は一つしかない。でも問題が、“10=(イコール)・・・”だったら?答えが無限大になる。いろんな方法にチャレンジしてみて、“10イコール”にたどり着くまでがんばりゃいいじゃん、っていうのが、鈴生の考え方です」
そう話し始めた鈴木社長。
「経営者って、目的を決める人なんです。例えば、“8月1日の朝8時に、富士山の山頂で、社員全員集合するぞ”っていう目的を出す。そしたら、社員同士で相談しあって、目的のゴールにたどり着くための、いろんな方法を考える。この”10“、つまり、目的・ゴールである、”問題“を設定することが経営者の仕事です。例えば、目的の”8月1日の朝8時に着く、富士山山頂への行き方“を、そのまま教えたら誰でも登れるかもしれない。でも、教えたことをただ実行するだけなら、”単に山を登っただけ“の”労働者“になってしまう。”どのようにしたら目的を達成できるのか“を、みんなで考える、そういう環境を作る。自分は、うちで一緒に働く社員には、“ただ言われるままに、誰かの後をついていけばいい“、じゃなくて、みんなで”10イコール“を達成するための方法を考える、登山の計画・戦略を立てる人間になろうぜ、って話してます。そうやってみんなで登っていくうちに、見える景色が変わってきて、会社が大きくなっていた、そんな感じです」

“原点に戻る”という経験から得た「立ち止まること」の意義
目覚ましい発展を遂げてきたSUZUNARI GROUP。しかし、その陰には、失敗や苦悩の数々がありました。
「やりたいことがあるからといって、社長が勝手に高い目的を掲げ、アクセルを踏みっぱなしにして、ずっと右肩上がりに事業を拡大するとどうなるか。人財が育成されていないから、人がついてこなくなります。自分も、会社をただ大きくしようとして経営をしていた時、仲間がばらばらになってしまったという経験があります。みんな一生懸命働いてくれているのに、利益がついてこなくなってしまって、めちゃくちゃ悩みました。そのとき『自分って、なんでこの会社を作ったんだっけ』って、すごく考えました」
一番大切にしたいことは、経営理念である“おいしさを求めて”、『絶対に手を抜かず、みんなが“おいしい”って言ってくれるものを作る』ということ。創業者としての想いは『自分も、社員も、その家族も、取引先も、鈴生に関わった人みんなが幸せになるような会社にしたい』ということ。鈴生が目指すべき目標は、『出会う、関わる、全ての人に、“やっぱ、鈴生っていいよね”って言ってもらえる会社にする』ということ。
この想いを新年のあいさつで社員に伝えることができました。

原点に戻って、一番大切にしたいことを確認し、共有したからこそ、あの苦しい時期をみんなで乗り越えてこられたんだと思う、と語る鈴木社長。
「事業を拡大するには、順番が大切だと思います。まず、どこまで行くかの目標、“10イコール”の10を決める。そこに向かって、人を育てる手助けをする。次の事業の構想を建て、仲間を集める。資金計画を建て、資金を調達する。この準備の段階では、売上は伸びないから、売上を棒グラフにすると、踊り場みたいに横一線に見えます。私はこれを、“踊り場経営”と呼んでいます。でも、この踊り場の部分、次の新規事業を担う人財育成、事業を進めるための資金調達の期間をスキップしては、その先のどこかで歪みがきてしまうんです」
「挑戦すること」と「立ち止まること」。「変えること」と「変えないこと」。対極にある二つを、両立させること。これが、SUZUNARI GROUPの確固とした基盤を形作っているのかもしれません。
“誰のために、何をつくるか”へのこだわり
鈴生では、出荷物を播種前に契約し、規格・数量・単価・販売期間等を定め、契約量の120%を生産する計画を立てて生産を行っています。さらに契約の前に、「どんなレタスがほしいんですか」と、契約先にヒアリングを行うほか、加工現場まで出向き、工場で加工する人の声も拾い上げながら、品種やサイズなどを決めていくこともあります。
「“もっと大きくて、歩留まりがいいほうが処理しやすいんだよね”とかいう声を聞かせてもらえたら、それが実現されるように動きます。そしたら、“鈴生に頼んでよかった。来年はもっと契約量を増やしたい”って思ってもらえますよね」
出荷中も、取引先にレタスの生育情報を毎週報告しています。
「良い情報も、悪い情報も、どちらも流します。“寒波で生育の遅れが出ていて、翌々週の出荷が予定量に満たない可能性があります”とか。良かろうと悪かろうと、正確な情報を伝えます。そうすれば、取引先も“そうか、鈴生だけだと足りないのか、他も探そう”という感じに、協力してもらえるんです」
一方で、契約量より多くのレタスが収穫されることもあります。
「そういうときは、特売などの情報を事前に仕入れているので、こちらから営業をかけにいきます。取引先も、自社も、鈴生に関わる全員が、“よかったな、鈴生とは長く一緒に仕事したい”、と思える付き合いをしていきたいんです」
小さなコップを奪い合わない
運送業から福祉事務所まで、幅広い事業に取り組むSUZUNARI GROUP。なぜ、これほどまでに多角的な事業拡大を選択してきたのか。
「みんなで“小さなコップ(マーケット)”に、自分の野菜を詰め込もうとして、誰かの野菜をこぼすような争いはしたくない」、と鈴木社長は語ります。

「ただただ野菜を生産しているだけでは、結局コップが早くいっぱいになっちゃうだけで、さらにその先にはいけない。農家も、ただ野菜を作っているだけでなく、コップを大きくするか、全く違う空のコップを作るか、何かしなきゃ、誰かが脱落しなければいけないんです」
だからこそSUZUNARI GROUPは、溢れだしそうなコップから抜け出し、新しいコップをつくる会社でありたいと考え、太陽光型植物工場と福祉事業を掛け合わせた農福連携事業や、スマート農業実証プロジェクトへの参加、運送会社の設立、輸出など、さまざまな事業に取り組んできました。
今もまた、あっと驚くような新規事業に挑戦しているとのことで、いくつもの将来構想をご紹介いただきました。
苦難のポケットにある解決策を探す
「今まで何回も、“やばい、もう今度こそダメかも”って思ったことがあります」と語る鈴木社長。
しかし、後から振り返ると、困難や逆境の中にいたときこそが、大きな飛躍のきっかけとなっていたそうです。
「苦しみがあれば、喜びが同じ量返ってきます。だから、どんなに強い逆風でも、悩んで行動することから逃げず、がんばり続けましょう」
鈴木社長は、「人生は8割が運」という言葉を信じている、といいます。
「努力の積み重ねをした人にしか、運はやってこない。来たとしても、すごいスピードで過ぎ去っていくから、“受入れる準備”ができていないとつかめないと思っています。日々、仲間に感謝し、努力をし、受け止める準備をし続ける人にしか、運は受け止められない。豊かな土を作り、芽が出なくとも、種をまく(挑戦を続ける)ことを止めてはならない。自分はそう思っています」

ふみだすこと、実行すること、もがきつづけること
99%の人は、いいなと思っても、踏み出さない。自分は、そこを踏み出そうとしてきた、と語る鈴木社長。
「踏み出してみても、ほとんどうまくいきません。自分も失敗だらけだし、人にも嫌われる。出る杭として打たれることもしょっちゅうです。でも、そこをもがいて、もがき続けていると、必ずチャンスが回ってきます。そこを、捕まえられるか。努力をし続けられるか。そういうことだと思います」
原点を忘れず、挑戦し続ける
講演を聴いた参加者からは、「経営の規模や事業内容の大きさに圧倒された」という声とともに、「どんなに事業が大きくなっても、“原点”を忘れない姿勢に心を打たれた」という感想が多く聞かれました。
苦しみを絶え間ない努力でくぐり抜けてきた鈴木社長の姿は、参加者一人ひとりに勇気を与えてくれたのではないでしょうか。
「挑戦し続ける姿こそが、農業の未来をつくる」
そう確信させてくれる、熱量と希望に満ちた講演でした。
